フリーランスエンジニアとしてこれから独立する人、独立して間もない人は、税金について正しく理解していないことが多いです。私自身もその一人でした。
フリーランスで活動するには、会社員時代と違って金銭面などを自分で管理します。
「会社員時代と何が変わるのか」「税金の支払いはどうすれば良いのか」と不安に思うフリーランスの方も多いと思います。
また、税金の種類にも、「所得税」「住民税」「消費税」など様々です。
そこで今回は、フリーランスエンジニアの金銭管理で特に重要な「税金」について、種類や計算の仕方、課税されないものまで、丁寧に解説していきます。
「税金」について理解を深め、確定申告の時に焦ることがないようにしましょう。
目次
フリーランスエンジニアが支払う税金の種類
まず初めに、フリーランスエンジニアは、自分が支払う税金の種類を知っておくべきです。税金の中には、「申請をすると税金が安くなるもの」や「支払いをしなくて良い」ものもあります。
そして、フリーランスエンジニアが支払う税金の種類は4種類に分けられます。
具体的には、「所得税」「住民税」「消費税」「個人事業税」です。
この4種類の税金の支払いは、前年の所得を確定申告することで金額が決定します。フリーランスエンジニアの場合、会社員と異なり自分で確定申告をします。正しい所得を申告して、きちんと税金を納めてください。
フリーランスエンジニアでは自己申告制の所得税
最初に知っておくべき税金が「所得税」です。所得税とは、1年間(前年の1月〜12月)の利益に対して、一定の割合を国に支払う税金のことです。
利益とは、「収入(売上) − 経費」のことです。
会社員の場合、税金は給料から自動的に引かれます。フリーランスエンジニアの場合は、確定申告時に「所得税」を計算して納税しなければいけません。
納税額を間違えて申告していた場合は、罰金の可能性もあるので、確認をして納税することが重要です。
課税所得
所得税など税金の計算をするときは、まず課税所得を算出します。課税所得とは、年収から経費や各種控除を差し引いたもので、「実際に税金がかかる所得」のことです。
課税所得額の計算式は以下になります。
重要なのは、経費や控除などの収入から差し引く金額です。この差し引く金額が大きければ大きいほど、課税所得は減り、実際の所得税も少なくなります。
つまり、経費や控除が多いほど「節税」できるのです。
フリーランスエンジニアの方は、経費や控除について理解していないと、確定申告時に損をしてしまいます。これらを理解して正しく税金を納めましょう。
経費や各種控除
経費とは、「仕事をする上で必要なお金」のことです。例えば、仕事に使用するために買ったパソコンや、エンジニアになるために投資したお金(教材や受講料)は経費になります。また仕事の打ち合わせを飲食店でする場合も、同様に経費です。
しかし、飲食店などのお店での会計を経費にする場合は、税務署に質問されても問題ないよう必ず説明できるようにしてください。具体的には、領収書やレシートの裏に「○○さんと打ち合わせ」と書いておくなどです。
所得控除とは、「個人の様々な状況を考慮して、税金の額を調整するためのもの」です。簡単に言うと、不平等を減らす制度です。
例えば同じ収入でも、独身の人と結婚して子供が3人いる人が同じ税金額を支払うことは不平等だと理解できます。その解決策が「配偶者控除」「扶養控除」です。
所得控除の種類には以下のものがあります。
基礎控除 | 一律で適用される控除。納税者全員に適用され、一律で38万円が控除される。 |
社会保険控除 | 国民健康保険、国民年金を支払った人に適用される控除。支払った保険料が全額控除される。 |
青色申告特別控除 | 青色申告を選択すると適用される控除。複式簿記の場合65万円、単式簿記の場合10万円が控除される。 |
生命保険料控除 | 生命保険料を支払った人に適用される控除。最大で12万円が控除される。 |
雑損控除 | 災害や盗難などによって被害を受けた場合に適用される控除。損失額に応じて控除額が変わる。 |
医療費控除 | 医療費から保険料を差し引いて10万円以上支払った場合に、10万円を超えた分が控除される。 |
小規模企業共済等掛金控除 | 小規模企業共済を利用している場合に適用される控除。その年に支払った掛金が全額控除される。 |
地震保険控除 | 地震保険料を支払った場合に適用される控除。最大5万円が控除される。 |
寄附金控除 | ふるさと納税など、寄付をした場合に適用される控除。「特定寄附金 − 2000円 = 寄附金控除額」で控除額が算出される。ただし、上限は年間所得の40%まで。 |
障害者控除 | 納税者もしくは配偶者、扶養家族が所得税法上の障害者に当てはまる場合に適用される控除。1人あたり27万円が控除される。 |
寡婦控除 寡夫控除 |
夫または妻と離婚や死別した場合などに受けられる控除。基本的には27万円が控除される。 |
勤労学生控除 | 納税者が勤労学生の場合に適用される控除。27万円が控除される。 |
扶養控除 | 扶養家族(子供など)がいる場合に適用される控除。基本的には38万円が控除される。 |
配偶者控除 | 配偶者(夫か妻)がいる場合に適用される控除。38万円が控除される(配偶者が70歳以上の場合は48万円)。 |
配偶者特別控除 | 配偶者の所得が38万円を超えていて、配偶者控除を受けられない場合でも、配偶者の所得金額に応じて適用される控除。配偶者の所得金額によって変動する。最大38万円が控除される。 |
所得税シュミレーション
それでは、実際に年収を仮定して算出します。
【例】前年の年収500万円の場合
最初に経費や各種控除がどれくらいかを確認します。
基礎控除:38万円
社会保険料:約57万円
青色申告特別控除:65万円
基礎控除は、納税者全員に適用されるので必ず控除の対象になります。また社会保険料は、人によって違いますので大体の数字です。
青色申告特別控除は、簿記の原則に沿った資料を作成し税務署に提出することで受けられる控除です。最大65万円まで控除することができるので、活用しましょう。
すべての控除が確認できましたら、年収500万円からその控除額を差し引きます。
課税所得額は320万円になりました。この金額から表に当てはまる税率を掛けて、控除を引きます。
<参考資料>
・所得税率(平成27年以降)
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円を超え 330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円を超え 695万円以下 | 20% | 427,500円 |
695万円を超え 900万円以下 | 23% | 636,000円 |
900万円を超え 1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円を超え 4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
上記の表の金額を当てはめると
つまり年収500万円のフリーランスエンジニアの方が支払う「所得税」は、222,500円になる計算です。
住民税は住む市町村によって変わる
住民税とは、住んでいる地域で徴収される「都道府県民税」「市町村民税」の総称のことです。毎年、1月1日時点で住んでいる住所の管轄である都道府県や市町村に徴収され、住んでいる地域によって少し金額が変わります。
この「都道府県民税」と「市町村民税」は合わせて徴収されるので、住民税という一つの括りで覚えておけば大丈夫です。
住民税は、確定申告を行うと6月の中旬ぐらいに納税額の通知書が市区町村から送られてきます。そのため、通知書に記載している金額を支払うことになります。
支払う時期は基本的に「6月末・8月末・10月末・翌年1月末」の4回払いです。
まとめて一括して支払うことも可能ですが、割引などの特典は特にないところがほとんどになります。
確定申告をした3〜4ヶ月後ぐらいの忘れた頃に通知がきて、なおかつ納税額も1回あたりの金額が大きいです。スケジュール管理帳などに早めに記入しておき忘れないように管理しましょう。
住民税の計算方法
住民税は、「均等割」と「所得割」によって算出されます。「均等割」は収入に関係なく一律で課され、「所得割」は収入に応じた額を課されます。
まず「均等割」は基本的に、
の徴収額になります。住んでいる地域によっては、独自の税額を設けているところもあるので、4,000円にプラスして徴収額が増えることがありますが、大体4,000〜6,000円ほどになります。
また、2014年〜2023年までの間は、すべての人に復興特別住民税が加算されるので、
が住民税の基本的な徴収額です。
次に「所得割」の計算式は以下になります。
税率は各地域によって変わりますが、ほとんどの地域で
都道府県民税の税率:4%
市町村民税の税率:6%
になり、合計すると10%税率がかかります。
税率=10%と覚えておけば大丈夫です。
税額控除とは、他の税金との二重課税を調整するためのものです。税務署に提出した確定申告の内容から差し引きされるので申告する必要はありません。
そして、住民税に適用される所得控除は、「基礎控除」や「社会保険料控除」など所得税と同様です。しかし、住民税では基礎控除額が33万円になるなど、住民税と所得税の控除額は違うので注意しましょう。
計算するのは面倒ですが、所得税と違いきちんと納税額の通知書がくるので、わざわざ納税額の計算をする必要はないです。事前に住民税がどれくらい掛かるのか気になる人は、計算してみてください。
住民税には「普通徴収」と「特別徴収」の2種類の徴収方法がある
ちなみにフリーランスエンジニアなどの個人事業主が、納税額の通知書を受け取り自分で支払いすることを「普通徴収」と言います。サラリーマンなどの企業に勤めている給与所得者の場合、毎月給料から住民税を天引きし、事業主が取りまとめて払います。この方法を「特別徴収」と言います。
住民税シミュレーション
実際の年収を仮定して算出します。
【例】前年の年収が500万円の場合
「均等割」と「所得割」の金額を求めます。市町村や都道府県によって多少の金額や税率に変動がありますが、今回は標準的な金額・税率で計算します。
まず「均等割」ですが、
となり、5,000円の徴収額です。こちらは面倒な計算がないので簡単ですね。
次に「所得割」ですが、
こちらの計算式に当てはめて計算します。
最初に経費や各種控除がどれくらいかを確認しましょう。
基礎控除:33万円
社会保険料:約57万円
青色申告特別控除:65万円
すべての控除額が確認できましたら、年収からその控除額を差し引きます。
住民税の課税所得額は325万になったので、税率を掛けます。
所得割額は325,000円になりました。これに均等割額を足します。
つまり年収500万円のフリーランスエンジニアの方が支払う「住民税」は、33万円になる計算です。
「ここまで細かい数字を導き出すのは面倒だ」という方は、「所得税」の課税所得額に0.1(10%)を掛けると大まかな住民税の徴収額がわかります。
消費税は1000万円がボーダーライン
フリーランスエンジニアなどの個人事業主として収入を得ている方は、
・2年前の課税売上高が1000万円を超える
・または1年前の1月1日から6月末までの半年の間で課税売上高や給与支払い額が1000万円を超える
場合には、消費税の納税義務が出てきます。そのため、課税売上高が1000万円を超えないときは、消費税の納税については考えなくて良いです。
ここで注意したいのは、課税売上高とは「消費税を抜いた年間の売上高」ということです。
「消費税を抜いた年間の売上高」とは、経費や控除額を引く前の純粋な収入から、消費税を差し引いた金額になります。
ですので、所得税や住民税で「課税所得額」を1000万円以内に収めた場合でも、消費税については納税義務が生まれます。また、消費税を抜いて1000万円以内に収まるときは、支払い義務はありません。
間違えないように納税の対象条件をしっかり覚えておきましょう。
消費税を支払う対象者
・2年前の年間の売上高が消費税を抜いて1000万円超えた場合
・1年前の1月1日から6月末までの半年で、消費税を抜いた収入が1000万円を超えた場合
消費税の納税方法
納税対象者となったら、納付書に現金を添えて
・税務署に直接提出
・日本銀行歳入代理店である金融機関に提出
する方法があります。
日本銀行歳入代理店とは、全国の地方銀行や信用金庫のことです。納付書は、税務署やお近くの金融機関に行けばもらえるので、記入した納付書に現金を添えて提出しましょう。
消費税の計算方法
消費税の基本的な計算式は以下になります。
支払った消費税とは、経費などの消費税の部分です。
フリーランスエンジニアの場合、経費や仕入れで発生する金額はそんなに大きくないでしょう。そのため、契約しているクライアントから受け取った消費税分を納税することになります。
つまり、年間の収入に消費税をかけると簡単に計算が可能です。
年間の収入1000万円の場合
年間の収入1000万円で支払った消費税を差し引く場合
このように消費税の納税額を計算することが可能です。
フリーランスエンジニアの個人事業税は課税されない
フリーランスエンジニアの方は、業務形態により個人事業税が課されるかどうがが決まります。基本的に個人事業税がかからないケースが多いですが、どういったケースが当てはまるのか、一つ一つ見ていきましょう。
個人事業税が課されないケース
フリーランスエンジニアは基本的に、クライアント1社に常駐して業務委託契約を結んでいる場合が多いです。
業務委託契約を結んでいるのであれば、
・会社に通勤し、契約先の企業と主従関係がはっきりしているなど会社に従属する要因が多いこと
・報酬形態が給与制であること
などから、一般的な会社員とほとんど差異がない場合は、個人事業税はかかりません。
個人事業税が課されるケース
主に請負契約をしている場合は、フリーランスエンジニアであっても個人事業税の課税対象になることがあります。課税対象になるかの裁量は、提出した確定申告書の「事業内容」「専従者」「取引企業」の項目から判断されます。
個人事業税が課される場合は以下の計算式を参考にしてください。
個人事業税の計算方法
個人事業税に課される金額の計算式は以下になります。
事業主控除額は290万円です。税率は業種により3〜5%になりますが、フリーランスエンジニアにかかる税率は5%です。
所得税や住民税のように所得控除はなく、一律で290万円の控除です。そのため、個人事業税を少しでも減らす方法は、経費の金額を高くする必要があります。
個人事業税シミュレーション
【例】前年の年収が500万円の場合
経費は50万円と仮定して、フリーランスエンジニアなので税率は5%で計算します。
年収500万円のフリーランスエンジニアが支払う個人事業税は8万円になる計算です。
税金の知識を身につけ、適正な税金を納めるべき
以上がフリーランスエンジニアに課される税金です。フリーランスエンジニアは確定申告などで税についての知識も必要になります。
自身で申告した金額を支払う「所得税」と「消費税」は、金額の間違いがないように注意が必要です。「住民税」や「消費税」に関しては、確定申告をすると通知が送られてくるので、記載されている金額を支払いましょう。
また、「消費税」は年間の収入が1000万円以内の場合は必要がなく、「個人事業税」についてもフリーランスエンジニアの方の場合は、納税対象から外れます。
「所得税」や「住民税」は、フリーランスエンジニアに限らず、全ての労働者に課される税金です。「確定申告をして税金を支払うのは面倒だ」と感じるかもしれませんが、経費や各種控除で税金を減らすことができるのがフリーランスのメリットです。
そのメリットをうまく活用できるよう、経費として購入したものはきちんと記帳しましょう。各種控除についても、青色申告などの適用できるものは全て申告して、正しい税金を納めるようにしてください。